イニエスタ選手の追徴課税の報道(住所とは?)

スキルアップ

1.はじめに

最近、日本の技術者や専門家が海外に流出しているというニュースが多く報道されています。
これは、国際的な経済活動の拡大や、
国外でのより魅力的な機会を求める人々が増えていることが一因ですが税制度の違いも、
国外への移住を検討する際の重要な要素の一つとされています。

2.所得税法上の居住者の概要と非居住者の概要について

日本の所得税法では、
「居住者」と「非居住者」の区分が重要な意味を持ちます。
居住者は、日本国内に住所を有するか、
または1年以上の滞在を予定している者と定義され、
全世界の所得に対して所得税が課されます。
一方、非居住者は、居住者以外の者とされており、
国内で発生した所得のみが課税対象となります。

3.イニエスタ選手の追徴課税の報道の概要

イニエスタ選手のケースは、
居住地の判断がどのように税務に影響を及ぼすかの一例です。
ヴィッセル神戸と契約を結んだ2018年に関して、
契約初年度であるため1年未満の契約だったようですが、
住所の問題で追徴課税を受けたとされています。
スペインで納税済みだった、とのことなので、
スペインか日本か、
いずれかの国で納税しすぎたこととなる税金の還付を受けることになると思われます。
このような事例は、
国際的に活動する人々にとって税務上のリスクとなり得ることを示しており、
居住地の確定がいかに重要であるかを強調しています。

※(参照)日経新聞2024年3月23日
2024年4月30日閲覧。

4.全世界所得課税と住所の関係

全世界所得課税制度は、
居住者は世界中のどこで稼いだ所得であっても、
所得税の対象とします。
多くの国ではこの制度を採用しています。
このため、住所地の正確な判定は極めて重要です。
ところで、税法に住所の定義があるかというと、どこにもありません。
民法第22条の住所の概念を税法は借用しています。
民法第22条は各人の生活の本拠をその者の住所とする、
と定義していますので、
納税者ごとの意思のみによって生活の本拠が定まることはありません。
実態として生活の本拠といえる根拠がどれだけあるか、
によって判定が異なります。
そのため税務に関する裁判でも、
この住所の判定によるものがしばしば論点になっています。

5.おわりに

居住者か非居住者かを判断する際には、
滞在期間、家族の居住状況、
経済的な活動の中心地等の様々な要素を総合的に考慮する必要があります。
また、判決例も多く存在しているので
これらを参考にする必要もあります。
不利益を被ることがないよう、特に注意が必要です。
曖昧だからでしょうか、
世界で活躍する日本人スポーツ選手も、
現地をベースにする選手、
シーズンが終わるとすぐに日本に帰ってくる選手、
と税務上の疑義を生じさせないためでもあるのでしょうね。
社内では税務の専門誌に掲載される判決例の記事を使って検討をする機会もあるので、
一緒に学んでいければと思います。

※具体的な事案に対して適用する場合は、
顧問税理士等にご相談ください。
この記事を参考にした結果発生した損害について、
筆者及び当社は責任を負いかねますのでご理解のほどお願いいたします。
※2024年4月1日時点の法令等に基づいて執筆していますのでご留意ください。

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