1.103万円の壁以外の他の壁
「103万円の壁①~基礎控除~」、「103万円の壁②~給与所得控除~」で103万円の壁について考えてきました。
制度の仕組みから、103万円以内だと税負担を抑えられるので、103万円を超えないように働かないようにシフトを調整する、
という行動が起きています。103万円を超えると、扶養から外れてしまうためです。
特に12月はそのような動きが多く、経営者はもちろん、シフトを組む店長さんの頭を悩ませています。
今この壁を引き上げようとする議論がなされていますが、
実は、基礎控除や給与所得控除以外の制度を考慮すると「壁」はまだあります。
今回は他の「壁」を考えていきたいと思います。
2.106万円の壁
勤務先の社会保険に加入する義務が発生する収入ラインです。
税制と社会保険では不要から外れるラインが別に設けられています。
正確には月88,000円以上の賃金を得ることが要件の一つなので、
1,056,000円が壁となります。
この壁を越え、かつその他の要件(例えば週20時間以上勤務)を満たすと、その勤務先で社会保険に加入することとなるとともに、
社会保険の扶養から外れることとなります。
3.130万円の壁
もし106万円を超えても、その他の社会保険の加入要件を満たしていなければ、
加入義務はなく、社会保険上の扶養のままとなります。
しかし、年収が130万円を超えると、勤務先の社会保険か自治体の国民健康保険と国の国民年金に加入する義務が生じます。
つまり、130万円の年収を超えたら社会保険の扶養から外れることが確定します。
4.150万円の壁
ご夫婦の場合、一方の配偶者の年収が150万円以下であれば、配偶者(特別)控除として38万円満額、適用でき、
世帯としての税負担が少なくなります。
しかし150万円を超えてしまうと少しずつ控除額を削られるため、
この年収ラインを壁と表現する方がいます。
5.壁の影響
税負担を抑えるため、103万円、106万円、130万円を意識しているご家庭は、
私見では非常に多い印象です。
今、税法の改正議論によって103万円は引き上げられそうですが、社会保険の壁である106万円や130万円については
どういった議論がされているのでしょうか。
106万円の壁については撤廃の方針となっています。
ただし、106万超以外の社会保険の加入要件である週20時間要件は変更がありません。
働き控えの解消という観点からは不十分な改正と言えるかと考えられます。
130万円の壁の議論については、現状は存続する方針です。
5年後の2029年ごろに再度、年金制度改革を検討するという取り決めとなっている模様です。
まとめ
国民民主党の主張は、働き控えの解消、経済の活発化を促すことで減税分を上回る自然増収を狙うものです。
税制については引き上げが決まっており、働き控えの解消に一定の効果がありそうです。
一方、130万円の壁は、私見では非常に根強く意識されていますので、
抜本的な働き控え解消とはなっていないのかもしれません。
しかしながら「103万円の壁①~基礎控除~」で触れた通り、物価の上昇に伴って基礎控除を引き上げてきた理論と実績がありながら
10数年改正がされていなかったことにメスを入れたことには、税制としては正常な状況に近づけられたのではないか、
と思われます。
経営者である顧客とは、この働き控え、所得の調整の話はしばしば話題に上がりますので、
報道を見ながらも、適切な情報収集をする習慣を身に着けていくことが望ましいと考えています。
※具体的な事案に対して適用する場合は、顧問税理士等にご相談ください。
この記事を参考にした結果発生した損害について、筆者及び当社は責任を負いかねますのでご理解のほどお願いいたします。
※2024年4月1日時点の法令等に基づいて執筆していますのでご留意ください。
※特定の政党を支持するものではありません。また法律の背景から検討したものであり、経済政策や財政を加味したものではありません。