個人事業から法人化をお考えの方も多いかと思います。こちらではそんな方々のために、医療法人のケースを例に「法人成り(会社設立)」のメリットとデメリットを解説いたします。
医療法人の設立
個人で開業された後、順調に医院を発展させてきた医師の先生方の中には、医療法人にした方がよいのかどうかお悩みの方もいらっしゃるかと思います。
弊社では、医療法人設立後の損益や節税額、キャッシュフロー等のシミュレーションを行い、先生方との十分なお打ち合わせをしながら、医療法人設立申請から法人登記、その後の税務手続・申告までサポートしております。
弊社でのサポート実績
【ケース①】東京都の医師
年間診療報酬:7,600万円
医師:1人
●医療法人化の効果
納税額 納税後手取額
医療法人設立前(個人) 1,578万円 3,172万円
医療法人設立後(個人+法人) 960万円 3,572万円
↓ ↓
618万円の節税 400万円のキャッシュ増
【ケース②】神奈川県の医師
年間診療報酬:1億5,800万円
医師:1人
●医療法人化の効果
納税額 納税後手取額
医療法人設立前(個人) 4,245万円 5,695万円
医療法人設立後(個人+法人) 2,910万円 6,550万円
↓ ↓
1,335万円の節税 855万円のキャッシュ増
医療法人化のメリット
- 所得の分散化が図られます
個人開業医時代の院長自身の所得を院長と医療法人に分散することができます。また、家族役員に対し、役員報酬を支払うことができます。 - 税負担を軽減することができます
所得税の超過累進税率(所得が多くなるほど高くなる税率)よりも法人税の比例税率(所得の額にかかわらず一定の税率)を適用することにより、高額所得者であれば税率差により税負担が軽減されます。 - 一定の生命保険等を費用化できます
個人開業医の場合は、生命保険料は必要経費にならず、年間12万円を限度とした所得控除しか認められていませんが、医療法人の場合は、一定の条件を満たした生命保険や損害保険等の保険料を上限なく費用として計上できます。 - 役員退職金の支給ができます
個人開業医の場合は、院長先生への退職金の支給は認められませんが、医療法人の場合は適正な額の退職金を費用として計上することができます。 - 社会的信用の向上を図ることができます
医療法人は法人会計を採用するため、財務面での信用が向上し、金融機関等に対する対外的信用も向上することとなります。また、社会的信用の向上が職員の募集等においても有利な場合もあります。 - 会計年度を自由に決められます
個人開業医の場合は、1月1日から12月31日までの事業年度となりますが、医療法人の場合は会計年度を自由に決めることができるので、繁忙期を避けた決算期の設定や、資金繰りに応じた納税時期の選定が可能となります。 - 事業承継、M&A等がスムーズとなります
医療法人の場合は、診療所の開設等の行政上の認可や事業用財産の所有権は、すべて医療法人に属することとなるため、事業承継やM&Aにおいては、経営者の交替という手続きのみでスムーズに行うことができます。 - 分院の開設ができます
個人開業医には認められていない分院の開設をすることができます。 - 社会保険診療報酬について、所得税の源泉徴収がありません
個人開業医の場合は、社会保険診療報酬について決定額の約10%の源泉徴収額が控除された金額が入金されますが、医療法人の場合はその源泉徴収がなくなり、その分資金繰りがよくなります。 - 接待交際費が経費として計上しやすくなります
個人開業医の場合に必要経費として計上できる交際費は、診療業務を遂行する上で直接必要となるもので、その必要であることが明らかに区分できる部分のみです。従いまして、診療事業との関連性があいまいであったり、家事関連費との区分が客観的に区分できない交際費については、税務調査において否認を受ける可能性があります。医療法人の場合も、事業関連性は求められますが、その行為は法人として行われるため、原則として家事関連費との区分というものはありません。
医療法人のデメリット
- 残余財産が国等に帰属します
平成19年の医療法改正により、医療法人を解散したときは、残余財産の帰属先が基金の拠出者ではなく、国等に帰属することとなりました。ただし、解散を視野に入れた医療法人の設立や、その後の医療法人の運営により、残余財産が国等に帰属することを防ぐ対策も可能です。
例えば、
・医療法人設立時に、クリニックの土地や建物といった不動産を医療法人に拠出せず、院長先生個人からの賃貸により医療法人を運営することにより、処分しにくい財産を医療法人に持たせない
・医療法人解散時に院長先生に役員退職金を支給し、医療法人に留保されている財産をなくしたうえで解散をする
といった対策も考えられます。 - 事務手続きが煩雑となります
医療法人の設立に際しては県知事等の認可が必要となります。また、毎年決算書類を作成し、閲覧されることになっています。総資産や役員変更等の登記も必要となるため、事務処理が増加することとなります。
弊社では、医療法人の設立から、毎年の税務申告、各都道府県・市区町村への報告、資産の総額・役員の変更等の登記など、医療法人の運営に関する一切の手続を、提携している士業と連携してサポートしております。 - 社会保険への加入が必要となります
社会保険については強制加入となりますので、社会保険料の負担が増加することとなります。 - 小規模企業共済及び倒産防止共済を脱退しなければなりません
医療法人化した場合、個人で加入していた小規模企業共済及び倒産防止共済を脱退しなければなりません。なお、小規模企業共済は掛金納付月数が84か月未満、倒産防止共済は掛金納付月数が24ヶ月未満での解約返戻金は、掛金の80%となります。 - 利益金の配当はできません
医療法人は非営利性を求められるため、医療法に、「医療法人は剰余金の配当をしてはならない」と定められています。 - 地方税の均等割が増加します
個人の住民税の均等割は、約4,000円程度ですが、医療法人の法人住民税の均等割は、約7万円となり、均等割の負担が増加します。
医療法人の種類
医療法人には大きく分けて次の2種類があります。
- 社団形式の医療法人
拠出により設立される法人です。
※平成19年4月1日の医療法改正により、現在は持分ありの社団医療法人の設立はできません。 - 財団形式の医療法人
寄付により設立される法人で、寄付した者は持分を持つことはありません。なお、現在全ての医療法人のうち約99%が社団形式の医療法人であるため、医療法人の設立にあたっては、社団形式の医療法人での設立を検討されればよいかと思います。
医療法人の設立手続き
医療法人は、都道府県に申請し、審査を経て認可を受けることにより設立されます。なお、申請についてはいつでもできるわけではなく、都道府県により異なりますが、年に2回程度、決められた期間内でなければ申請はできません。
また、申請してから認可されるまで約6ヶ月かかりますので、医療法人の設立を決めた場合は事前準備とスケジュールの管理が重要となってきます。
医療法人設立申請に必要となる資料
医療法人の設立の申請にあたっては、主に次の様な資料が必要となります(東京都の場合)。
- 設立認可申請書
- 定款
- 設立総会議事録
- 財産目録、財産目録の明細書
- 預金残高証明書
- 基金拠出契約書
- 設立時の負債内訳書
- 負債の説明資料
- 負債の引継承認願
- リース物件一覧表・リース引継承認願
- 役員及び社員の名簿
- 履歴書
- 委任状・役員就任承諾書・管理者就任承諾書
- 開設しようとする診療所の概要
- 賃貸借契約書
- 設立後の事業計画
- 設立後の予算書・予算明細書・職員給与費内訳書
- 過去2年間の実績表
- 過去2年間の確定申告書
- 診療所の開設届